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会誌『癒しの環境』vol.12 No.3
(2007年12月24日刊行)
「生きる歓び、アゲイン」 ―第36回研究会報告−
〜最新号の巻頭言から〜

 外科研修医の頃、虫垂炎で手術をすることになった患者さんを手術台に挙げてびっくりした。膝が曲がっているのは知っていた。膝だけではなく、股関節も90度に曲がっている。いすに座ったまま、仰向けになった状態だ。
 「いや、私の関節は、固めたんです。事故の後に」
 どうせ一生、動けないのだからとリハビリをせずにいると、膝関節も股関節も拘縮して固まる。昔の医療では、車椅子に座るのに、伸びた膝や股関節では不便であると考えた。車椅子の人は言う。「一生歩けないのはいい、一生車椅子というのも受け入れる。でも、排便だけは、困る」。この排便困難は、便秘という軽い言葉で片づけられないほどひどい。週に一度か二度、「ウンコウ日」というのを作って、前日から下剤を飲み、浣腸を何度もして、摘便などで強制排便をする。しばしば便が漏れて、便失禁をする。下痢が怖くてなま物、油物がたべられない。いつ便が漏れているかわからないから、お尻に手を当てて匂いを確かめて、失便を確かめることが癖になっている人も多いという。
 米国では、重度の排便困難症の患者さんには盲腸に小さな穴を開け、蓋付き管を埋め込む。ここから2日に1度浣腸液を注入し、大腸にある総ての便を強制的に肛門から排出させる方法である。米国から専門家を呼んで、2002年から青梅市立総合病院で脊髄損傷の方に手術を始めた。手術していろいろなことができるようになった。スーパーマーケットやデパートに行ける。散歩だけでなく、外泊もできる。セックスできるようになった、さらに、前向きに生きるようになりパソコンができるようになった。便失禁の心配なく電車などを使えるようになった。経済的にも助かる。紙おむつの使用量もかなり減った。患者の歓びの声が続々伝わってくる。
 今号では、そのひとり、織田敏次さんに歓びの声をきいた。「大成功です。2週間も便が出ないと、とてもつらかった」。周囲の障害の友人・知人よりも排便コントロールがうまくいっていなかったのだが、大きな満足感を持っている。日常生活での大きな負担と、精神的マイナス要因とを抱えている人にはぜひすすめたい。人生の中での画期的な変化だ。でも、QOLを高める手術は命に関係ないからと保険はきかない。
 人々を幸せにするのが医療である。今回の特集は「生きる歓び、アゲイン」とした。生きる歓びを取り戻した人と、それをサポートする人の特集だ。リウマチで寝たきりの人がプール療法で元気になったと語る福原寿万子先生の輝いた顔はまぶしいほどだ。英訳された福原先生のリウマチが治る本を米国の空港でみつけ、読んで感動したのを思い出した。森田広一郎さんはクローン病の患者3人で病気をネタに株式会社「三雲社」をたちあげた。内容豊富、さすがと思える情報誌『CCJAPAN』を発行している。生きる歓びを謳歌している青年だ。
 私が米国のSwedish Medical Centerで患者のエンパワメントを高める方策を学んできたことも併せて掲載した。読者がエンパワメントされて内なるパワーを高め、元気になっていただくことを望んでいる。人に幸せになってもらうことは、自分が幸せをいただくことである。 


癒しの環境研究会代表世話人
日本医科大学医療管理学教室  高柳 和江


最新号・主要目次
『癒しの環境』Vol.12 No.3
 CONTENTS 2007.12月
T.特集 「生きる歓びAgain 〜情報・リハビリ・エンパワメント」 −第36回研究会報告−

シンポジウム
魂が歓喜に震えた! 盲腸ポート手術の経験から
 織田敏次
病気をネタに、生きるよろこびを創りだす

三雲社『CC JAPAN』編集人 森田広一郎
楽しみながらリウマチを治すプール療法

医療法人社団福原病院理事長 福原寿万子
患者エンパワメントプロジェクト

東日本国際大学福祉環境学部 服部洋一
人間をサポートするシステム
国立看護大学校教授 森山幹夫 

U.病院見学会記録

高齢者福祉施設『風の村』を見学して
TOTO病院水まわりチーム 鈴木昭子
暮らしのある施設……『風の村』視察記
株式会社アートナウ 大貝道子
『風の村』見学レポート
介護老人保健施設かがやきライフ江東 辻本祥子 

V.論文・資料

フランスの入院患者憲章――全10条と解説

(翻訳)日本医師会総合政策研究機構フランス駐在研究員 奥田七峰子
米国Swedis Medical Centerにおける患者エンパワメントの現状

日本医科大学医療管理学教室 高柳和江
ユーモアセンスは人を長生きさせるか――ノルウェーでの研究から

日本医科大学医療管理学教室 高柳和江 

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