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会誌『癒しの環境』vol.10 No.3
(2005年12月20日刊行)
「ネットワークと癒し」 −第32回研究会報告−
〜最新号の巻頭言から〜
 年功序列の会社組織、町内会、農村社会、しきたりと行事、そして家族というタテ社会で生きてきた日本人は高齢になると、ひとり暮らしをするようになり、タテ社会から孤立してきた。高齢者だけではない。青年もひとり暮らしが増え、30〜34歳の人口では1975年に13.8%だったものが2000年には人口の3分の1にあたる35.5%が一人暮らしだという。30〜54歳に広げると、同期間中に7.9%から19.8%に、ほぼ3倍増になっている。
こうした若者はヨコのつながりを求めてネットワークの世界に入った。簡単なのはインターネットだ。ネットで次々にひろがる世界は無限大に見える。コンピュータの世界は透明で広域なネットワークを提供する。透明といっても何もしない透明ではない。利用者サイドから見ると透明であるが、インテリジェントで非常に快適かつ安全に通信できる。ユーザーがストレスを感じないような付加価値の高いオペレーションを行っている。かくて、オタクがそだち、ニートが増える。ヴァーチャルの中でチャット、ブログという手段で自己をさらけ出すこともできる。
しかしながら、人々が大地に足を踏みしめて生き、人々が互いに交錯し、よりよい社会を作っていくという健全な社会であるためには、手段としてではなく、生きがいとしてのネットワークが必要である。生きがいを共にするネットワークに参加すること、ネットワークを使っているうちに生きがいを感じることなど、タテ社会ではもちえない達成感や、充実感をヨコ社会で得られることができる。
 癒しの環境研究会は、3人の対話から始まり、会員はもはや600人を超すネットワークにひろがった。院長、医師、看護師、事務、薬剤師、調理師などなどのコ・メディカル、病院建築家、アーティスト、患者、患者家族、健康な人など職種を超え、年齢を超え、癒しの環境を作ろうというひとつの思いがつながった。そのそれぞれの人が、自分の職場、家族、地域などで、それぞれのネットワークを持っている。
新しいネットワークを構築するときはそのネットは太い。いったん構築されるとそのネットは細くなるように見える。「ネットを細くしようね」と言って細くするわけではないが、他とのネットが強くなったり、時の流れで細くなるのだ。しかし、いったんつながったネットは決して切れない。
私はどの友人とも、その一人ずつとそのときは強固につながっていた。クウェートで医師として働き、親しくつきあった。外国から賓客を迎え、日本語で「居候」と呼ばれる客人もいた。やりたいことは自分で創るしかなかった。オーケストラを結成し週に2回必ず合奏した。カルチャーセンターもたちあげ、日本からヴァイオリンの先生を呼び、クウェートの子供たち50人に10分の1サイズのヴァイオリンを持たせ、音楽会もした。
その先生が2005年12月の癒しの環境研究会で見事な演奏を聞かせてくれた。クウェートから帰って15年ぶりの邂逅だった。お互いに成長した姿で、微笑みあった。彼女の奏でるヴァイオリンの弓を通して魂の交流ができた。別の音楽会で彼女の音をもう一度聞きたいといった人も現れた。
 いったん構築されたネットワークは切れない。ネットはあちこちにひろがっている。そして、創られた新たなネットワークはあなたを通して外につながっていく。あなたが一歩を踏み出せば、新しいネットワークがひろがっていくのだ。ちょっぴり勇気を持って、新しいネットワークを探してみよう。育ててみよう。なければ創ってみよう。
癒しの環境研究会代表世話人
日本医科大学医療管理学教室  高柳 和江


最新号・主要目次
『癒しの環境』 Vol.10 No.3
CONTENTS 2005.12月
T.特集 「ネットワークと癒し」 −第32回研究会報告−

グループディスカッション
シンポジウム
携帯電話の癒し
NPO法人ヘルス・ケア・リレーションズ理事長 和田ちひろ
パソコンの楽しさ
静岡県立大学国際関係学部教授 石川 准
心をひらくネットワーク
社会福祉法人創生施設長・理事 岩城祐子
地域住民ネットワーク・ボローニャ方式

NPO法人「21世紀 癒しの国のアリス」理事長 八代富子
全体討議
スイス・癒しの医療環境研修報告「自助努力と安全、そして精神的拘束のない国」

日本医科大学医療管理学教室 高柳和江
高齢者福祉の視点で見たスイス
社会福祉法人全人会所長 永澤智子
医師としてスイスから学びたいこと
国際医療センター麻酔科 伊藤倫子
スイスにおける癒しとハードの関係
アイエヌジープランニング株式会社 山脇惣一郎

U.病院見学会記録

諏訪中央病院見学レポート
京都大学医学部保健学科教授 斎藤ゆみ
設計者の立場から
潟Aークル設計 大平真理子
「あたたかな急性期病院」をスローガンとして
諏訪中央病院名誉院長 鎌田 實

V.論文

動物のいる環境作りの一指標――動物との触れ合いによる老人保健施設入所者の「行動」と「気分」に関する研究
静岡県立大学看護学部 熊坂隆行

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