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会誌『癒しの環境』vol.10 no.2
(2005年09月20日刊行)
「間と癒し」 −第5回全国大会報告−
〜最新号の巻頭言から〜
 沖縄で癒しの環境研究会をした。沖縄は癒しの島であるが、60年前は死の島であった。以来、鎮魂の島でもある。「日本人は死をタブー視し、忌避している」という説に対して、医療人類学者の波平恵美子は、「日本人は死に慣れ親しんだ人々である」と考えている。死者儀礼によって死者から穢れを取り除いて使者を安寧な状態にするという儀礼的行為は日本の死の文化の大きな特徴であるという。日本人が身近な人の死に対して主導的に対処できないのはあくまでも医療の場においてであり、医療者との対応の中で、自分の死を考えたり論じたり主体的に振舞うことを許されなかったからに過ぎない。「死を忌避説」は、「死の医療化」を助長し、伝統的な死の文化を排除していると波平は言う。
 沖縄は、伝統的な死の文化の生きているところである。カメの甲羅をかぶせたような形をした石造りの大きな墓、亀甲墓も中国の南部から伝わってきた。出入りができる中央の口は、産道を表しており、人は死ぬと生まれてきた道を通って、母親の体の中に帰っていくという発想である。同じ先祖を持つ父方の血縁集団、門中の一族が墓に入る。先祖の供養は頻回に行なわれ、「大人も子供も当然のようにご先祖様を大切にする習慣」がある。お正月もご先祖様と一緒で、 お墓の前で、ご先祖様との親交を深め、お花や重箱を墓前にお供えし、「うーとーとー(手を合わせ拝むこと)」をして、あの世のお金「うちかび(紙銭)」を燃やし、ご先祖様が、あの世でお金に困らないようにとの願いを込める。ご馳走をいただきながらビールや泡盛で、ご先祖様とお正月を祝う。普段から親交を深めていたら、亡くなってからの行くところの不安はなく、死を穢れと考え忌避する風習はない。したがって亡くなった後で本人も使える癒しの空間がも必要なのである。
 沖縄大会のテーマは「間」であった。人間、生きていくにも、間が必要だ。「間」と「間髪いれず」は、相反する概念だ。散歩をしていたら、かわいい2匹のプードルを連れている人がいた。「兄弟ですか?」と尋ねたら、「赤の他犬です」と間髪いれず、返した人がいた。言いなれているのかと思った。理解するのに一瞬「タケン?」と、考えてしまう。これを、間をおいて、「えーと、そう見えるでしょうが、実は親は違うんですよね」という答えでは、間が抜けるだろう。デモ、この、抜けた「間」の時間が、質問したほうに、期待した答えと異なることを納得させる時を与える。
 入院の大部屋は、この「間」がない。日本には昔から、床の間とか、玄関の間とか、一見無駄に見える間が多かった。トイレも別棟にあり渡り廊下で通じていた。手水鉢が外にあり、庭を見ながら、今排出したあとの達成感と余韻に浸ることができたものだ。病院建築は、この間を徹底して排除したものだ。
 病人には、「間」が必要だ。癒しの環境は、病を持った人が自己治癒力を高めるところである。ハードにも、ソフトにも、間がありうる。星を眺めながら恋を語る。自然の営みを見ながらサムシング・グレートとよばれる大自然の深さを実感する。芽生えを見て、生命力の強さを知る。建物にも、設備にも、間で人間が豊かになれる。コーヒーカップのソーサーなんて、間そのもの。あのソーサーにカップと同じ量のコーヒーが入るって、知っていました? どんなになみなみと注いだカップでも、同じ量のコーヒーがソーサーに入る容量があるのです。「間」には、そんな懐の大きさがある。実証できてもできなくても、「間」が私たちに与える影響は大きいのだ。小宇宙に想像力を働かせることができるところ。笑いで一瞬なごんだ空間。どんな「間」が癒しの宇宙空間に必要なのか、考えてみたい。
癒しの環境研究会代表世話人
日本医科大学医療管理学教室  高柳 和江


最新号・主要目次
『癒しの環境』  vol.10 no.2
CONTENTS  2005.9月
T.「間と癒し」 −第5回全国大会報告−

第5回癒しの環境研究会全国大会を終えて

医療法人ちゅうざん会・緑水会会長 末永英文
癒しの環境と日本の医療
群星沖縄研修センター 宮城征四郎
講演
琉球歴史の謎とロマン
劇作家、総合プロデューサー 亀島 靖
めんそーれ 沖縄
医療法人ちゅうざん会・緑水会会長 末永英文
笑いと癒し
久留米大学 高次脳疾患研究所教授 森田喜一郎
ものの見方、考え方の落とし穴 ――間主観性から癒しを考える

群馬大学教育学部・河合塾ライセンススクール講師 高橋美保
シンポジウム
癒しを考える
白濱貫信、高柳和江、高橋美保、武久洋三
特別講演
ゴルフと癒し
ゴルフティーチングプロ 宮里 優
分科会1 音と癒し
癒し効果がある動物の鳴声の音声分析

川崎医療福祉大学医療福祉環境デザイン学科 梶田博司
分科会2 間取りと癒し
「壁に対して、斜めに置かれたベッドに寝る」環境における癒しの効果について その1;建築学的視点からの検証
東京大学大学院工学系研究科・建築学 岡本和彦他
空間認知の基礎研究 「壁に対して、斜めに置かれたベッドに寝る」環境における癒しの効果について その2;生理学的・心理学的視点からの検証
日本医科大学第2病理学教室大学院 藤原ゆり他
斜めのベッドで眠れるか
日本医科大学医療管理学教室 高柳和江
分科会3 空間と癒し
病院と介護施設における癒しの空間づくり
京都きづ川病院顧問 奥山文朗
分科会4 癒しの指標
障害受容の程度と心理的アプローチの方法について〜癒しは何によってもたらされるか〜

医療法人ちゅうざん会ちゅうざん病院リハビリテーション部心理室 崎浜海里
分科会5 会話と癒し
精神対話士のもたらす効果と現状について
博愛記念病院看護部 佐々木香苗
一般演題
音と癒し 癒しと音楽(よし笛に魅せられて)

老人保健施設 萌木の村副施設長 安藤由美子
間取り・家具・音がもたらす相乗効果
カレスサッポロ北光記念クリニック 上田隆樹
高齢入院患者に対する音楽療法の試み――Music as therapy(治療としての音楽)を目指して
外旭川病院看護部 佐藤栄子 佐藤聖子
歯科診療における癒しの環境
ヨコタ歯科院長 横田若生
会話、交流(ゆんたく)の癒し効果――通所リハビリテーションの利用者の事例より

宜野湾記念病院 知念良子
空間と時間を利用した癒し
市立御前崎総合病院・花の会 塚本 隆男
ホットする空間のホットなサニタリープラニング――噴火避難の経験を通して

洞爺協会病院リハビリテーション部 後藤義朗
開放的な空間と自然・人とのふれあい
平成病院リハビリテーション課 細川雄平
痴呆病棟における壁画療法の効果――明るい部屋とバルコニー壁画による開放的空間をめざして
北柏リハビリ総合病院 精神科痴呆病棟 益田幸子
癒しの空間――外来ホール・中庭
東浦平成病院受付 仲 香澄
小規模生活単位型施設における空間と癒し
介護老人福祉施設ヴィラ羽ノ浦 十河純也
ビフォアー&アフター:光と空間が本音を引き出した

全人会デイサービスセンター水沢フィラン所長 永澤智子
喫煙者におけるリラクゼーション効果――精神科における癒しの空間とは

石川県立高松病院 田村年子
小児病棟における医療チームの癒しへの取り組み――子供の笑顔と安らぎを得るための空間利用
成田赤十字病院看護部 佐藤尚子
癒しの医空間を彩る色のチカラ――ユニフォームの色彩考
株式会社フラックス 山内暢子
学生の“癒し”に関する意識調査
西日本リハビリテーション学院教務部 浪本正晴
癒しの指標
Peace Dugong 奥野美矢子
休日と癒しの関係について
聖ヶ塔病院リハビリテーション科 岩下佳弘
看護者の対応評価に関しての調査
東北会病院 白鳥英子
発想の転換――本業が勝負の癒しの環境と環境ISO
岡山旭東病院 今吉弘樹
園芸療法と空間の癒し
岡山旭東病院 業務管理課 齊藤哲也
宮古島の間と癒し――沖縄離島からのメッセージ

宮古島徳洲会病院脳神経外科 竹井 太
間取りと癒し――待合室に鉄道模型
京都きづ川病院企画室 小司秀幸
精神科診察室の中待合について
南淡路病院 日當福太郎
精神科診察室とバックヤード
南淡路病院 井上拓人
完全療養病棟における病室の広さによる功罪
博愛記念病院看護部 宮竹裕美
外来環境と癒し――目と耳から感じる癒し
宜野湾記念病院 山川優希
浴衣祭りにおける癒しの試みのアンケート調査

社会福祉法人浴風会第三南陽園 榛名荘病院 山川 治
焼きたてパン・手作りケーキと癒し
博愛記念病院管理栄養部 森本あかね
お好み献立と癒し
博愛記念病院管理栄養部 内藤恵美子
色彩映像によるストレス緩和効果の研究

京都大学医学部保健学科看護学教授 齋藤ゆみ
癒しの色彩計画――福祉施設ベルタウンの事例

関西ペイント株式会社CD研究所 田辺千尋
緑茶に含まれるユニークなアミノ酸、テアニンとそのリラックス効果について

株式会社サンフィールド 位田毅彦
光色の違いによる癒しの効果――心拍数と心理的変化の相違

西日本リハビリテーション学院理学療法学科 田島徹朗
デイサービス活動における地域とのつながり――銀行への壁画展示活動から考える地域連携のきっかけ作り
株式会社アリスの夢 福祉レクリエーションワーカー 都祭浩美
畳で作る病棟内の安らぎの空間
聖ヶ塔病院5階病棟 畑野明美
当院における癒しの取り組み
順天堂大学医学部附属順天堂医院 萩本孝子
在宅死の中の癒し
聖ヶ塔病院訪問看護ステーションのぞみ 下田直美
当院におけるチャプレン室の活動について――癒しが起こるための時間の共有と関わり方のあり方
北中城若松病院チャプレン室 喜瀬英
ポスター発表
ぷれはぶの間
あきら医院 畠中時子
ブラッダースキャンの有用性
シスメックス株式会社 水内明子
通所リハにおけるいやし効果を考える
ちゅうざん病院・通所リハビリテーション 浜端順子
集団心理療法を用いた心理的介入について――メンタルヘルスの諸要因と障害受容の観点から
ちゅうざん病院リハビリテーション部 安里優子
ひと息いれましょう――深呼吸の効果について

ちゅうざん病院リハビリテーション部 照屋若夏
病院見学会記録
米国海軍病院見学記
東京大学工学部建築学科 岡本和彦
沖縄県立中部病院を見学して
したみち通り看護ステーション 山崎桂子
沖縄県立中部病院を見学して
シダックスシーアンドブイ株式会社 古市利幸

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